帯津良一
医療法人直心会帯津三敬病院名誉院長に訊く

 人類を含めたあらゆる生物はすべて天(宇宙、気象、気候、天の気など)、大地(地の気、大地からの恵みの植物、動物、水など)の間でバランスを保って生きてきました。中医学、漢方ではそのバランスが崩れると陰陽の調和が乱れると考え、病気の原因と解釈しています。
 陰陽とは人間では、体表―体内、上半身―下半身、右―左などで判断します。この陰陽の調和を改善して健康を保とうとするのが中医学、漢方、大きくは東洋医学の考え方です。 健康とはいつもバランスの上で成り立っているからです。今回は漢方やホメオパシー、サプリメント、気功なども取り込んでホリスティックな治療をしている帯津三敬病院の帯津良一先生に話を聞きました。

がん治療と漢方について

わが国の医学は、明治以来は西洋医学を中心に発展してきました。それまでの旧習を打ち破った役割は大きく、私たちは今も大きな恩恵を受けています。

しかし、中国の長い歴史に育まれ、日本に伝来してから独自の発展を遂げた漢方にも西洋医学にはない特長があります。

本誌では、「がん治療は総カ戦」と話される医師は多いため、漢方も軍要ながん治療のカードに活かすことができれば、貴軍な戦力になるものと思われます。

そこで今号の特集では、医療法人直心会帯津三敬病院の帯津良一名誉院長に、漢方とがん治療について、いろいろとお伺いしました。

漢方と西洋医学の”いいとこ取り“が、がんの再発率の低下につながる

――帯津先生にいろいろと漢方についてお伺いしたいのですが、まず先生と漢方の出会いからお話しいただけますか。

帯津:私は、東京大学医学部を卒業後、同大学病院で第3外科に勤務、その後、都立駒込病院外科医長として、長年がん患者さんの手術を数多く手がけてきました。

駒込病院時代の私は、ちょうど40代で体ガ・気力が充実していたときで、「手術時間をいかに短くするか」「輸血量をいかに少なくするか」「合併症をいかに抑えるか」などと、手技の向上を日々目指していました。

そして、手技が向上することにより、手術を受ける患者さんの負担が少しでも減るように、考えていました。

しかし、手術が成功し、以前より患者さんの負担が少ない手術を行っても、患者さんの再発率は、以前とあまり変わらなかったのです。

この結果に私は愕然とし、「西洋医学自体に、限界があるのでは」と考えるようになりました。そこで出会ったのが、漢方なのです。

私は、漢方とともに気功やホメオパシーなど、他にもがん患者さんにプラスになる治療を積極的に提供したいと思い、自身で開業し実践してきました。

――がんの再発率に問題意識を持たれ、がん治療を俯瞰してお考えになられたということですね。

帯津:確かに西洋医学はがんを局所的に診るには、非常に長けた医学です。

しかし、局所と隣の局所との目に見えない関係や、体全体との関係、人間をまるごと診ることをあまり重視していません。

中国の医学は、体全体や局所同士のつながりを診る医療で、陰陽学説(この世は、陰と陽の対立と統一の結果とする考え)や五行学説(森羅万象を木・火・士・金・水の5つに分類した考え) というつながりを見る哲学があります。

この中国の伝統的な考え方が日本に入った後、独自の発展を遂げたのが漢方です。この漢方と、西洋医学の”いいとこ取り“が、がんの再発率の低下につながると思いました。

漢方は病状の劇的な改善を狙うのでなく、病気に対抗する体質改善を目指すという面で「有効」

――漢方は、長い歴史に育まれてきたわけですが、少し前までは大学でまったく学ぶ機会がなかったこともあリ、漢方を活用できない医師がいることはとても残念です。

帯津:漢方は、後漢の時代(西暦22年ー25年)頃に、医家・張仲景が編纂した伝統中国医学の古典『傷寒論』が基になっています。

この伝統医学が、日本に導入されたのは5~6世紀頃と言われています。その後、漢方は日本の風土や気候、日本人の体質に合わせて独自の発展を遂げたのです。 その歴史はとても長いもので、2千年とも3千年とも言われています。

こんなに長く息づいてきたわけですから、信頼できる考え方だと言えるでしょう。漢方薬は、さまざまな生薬を調合しますので、複合的な効果を発揮します。

しかし、個々の患者さんに合わせた処方をしますので、効果の再現性はまちまちになってしまいます。このことが、西洋医学一辺倒の医師たちから、「漢方の効果は懐疑的」と言われる理由です。

たしかに、漢方薬は数値化できるエビデンス(科学的根拠)が乏しいのは否めませんが、実際のがん治療の現場では、抗がん剤の副作用を和らげたり、体全体に癒しの効果をもたらしたり、 免疫力向上に寄与したりしています。

ですから、漢方は病状の劇的な改善を狙うのでなく、病気に対抗する体質改善をじっくりと目指すという面で、有効と言えます。

――神奈川県のがんセンターでは、最新の重粒子線治療が行えるようになったのですが、黒岩神奈川県知事は、ご自身のお父様のがん闘病の経験から、漢方サポートセンターの新設も同時に行うように指示されました。反対の医師もいたようですが、目の前のがん細胞だけにとらわれない考えをもっと共有できればいいと思います。

「高額の治療費がかかる重粒子線で、せっかくがん細胞を消失させても、その後のフォローがなければまた再発してしまう」というお考えからでした。

病状が改善されているのかを診断しながら、総合的に目的を達するのが漢方

――それでは、先生が実践されている具体的な漢方とがん治療についてお聞かせください。

帯津:がんの治療に効果があるとされる生薬は、約200種類あります。通常は、そのなかから、個々の患者さんに合わせた7~8種類を組み合わせて処方します。

エキス製剤化されているものと違い、生薬は保険適用になるものもあれば、ならないものもあります。

漢方の診察は弁証といって、患者さんの
①姿勢や顔色、舌などを診て診断する「望診」
②声調や臭いで診察する「聞診」
③病気の症状と原因、体質などを聞いて診察する「問診」
④脈の状態を捉える「切診」
の4つが基本です。

弁証により、がん治療を
①清熱解毒法(せいねつげどくほう)
②軟堅散結法(なんけんさんけつほう)
③活血化瘀法(かっけつかおほう)
④扶正培本法(ふせいばいほんほう)
の4つに大別し、体の抵抗力である「正気」の衰えを助け、体の損傷である「邪気」を抑えます。

①の清熱解毒法(せいねつげどくほう)は、熱を下げ、痛みを取る方法で、これらを伴った肝臓・肺・大腸がんや、白血病などに用います。

邪気が盛んで、正気が衰えている状態ですので、邪気を攻める生薬やエキス剤を使いますが、エキス剤ですと黄連解毒湯(おうれんげどくとう)や白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)を使用します。

②の軟堅散結法(なんけんさんけつほう)は、堅い部分をほぐして柔らかくし、がんによる痛みを和らげる方法で、乳がんや甲状腺がん、リンパ腺腫瘍など体の表面にかたまりをつくるがんに用います。

これも邪気を攻める攻法で、エキス剤でごしゃくさんまきょうよくかんとうは五積散(ごしゃくさん)や麻杏憩甘湯(まきょうよくかんとう)を用います。

原則としては、皮膚への転移とか頸部リンパ腺への転移の場合に使いますが、肝転移にも使用する場合もあります。

③の活血化膀法(かっけつかおほう)は、血液の鬱滞(うったい:血流などが静脈内などに停滞した状態)を取り、血の巡りをよくする方法で、体のどこかに血液が鬱滞している場合の、どの臓器のがんにも用います。

これも邪気に対する攻法で、エキス剤では、疎経活血湯(そけいかっけつとう)を用います。

④の扶正培本法(ふせいばいほんほう)は、体の抵抗力を高める方法で、がんが進行し体カの衰えが著しく、正気不足の状態のときに、抵抗力を高める目的で用います。

これだけが正気に対する補法(ほほう:弱っている臓腑または経絡に刺激を与えて正常にもどす療法)で、エキス剤では補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)などを用います。

がんの後や、抗がん剤の副作用の軽減、終末期のがん患者さんにも使用するなど、最も使用頻度が高い漢方です。

病状が改善されているのかを診断しながら、総合的に目的を達するのが漢方です。本来は、エキス剤ではなくその診断に合わせた1人ひとりの証(症状・体質)に合わせて生薬を調合しますが、本誌は一般向けなのでここでは割愛します。

漢方にも抗がん作用があるものがあるー日本人の体質に合わせ開発した「天仙液」

――漢方によるがん治療の、具体的な症例を1つあげていただけますか。

帯津:ある作家の友人が食道がんになり、食道全摘出の手術を受けましたが、食道がんはリンパ節に転移しやすく、残念ながらその方もすでに転移があり、ステージⅣの状態でした。

抗がん剤治療は苦しかったようで、大学病院のペプチドワクチンを申し込みましたが、順番待ちで治療開始まで3カ月以上かかると言われたそうです。

その間手をこまねいていることもできないので、私のところにいらしたのですが、触診の際にリンパ節に転移したがんは触るとわかるほどでした。

そこで、私なりの弁証で消熱解毒法と判断し、それに対応する漢方薬を処方しました。

それから3カ月が経ち、大学病院でペプチドワクチンの順番が来たので、あらためてCT検査をしたところ、がんが消失していたという症例があります。

この経緯を友人から聞いた作家が驚かれ、週刊誌に書かれたので、その頃は評判になりました。このような症例が毎回あるわけではありませんが、大きな可能性を示してくれた症例だと思います。

――先ほど、4つの弁証につき「攻法と補法」にも分類されていらっしゃいましたが、清熱解毒法という攻法でがんを攻撃できたということですね。

漢方でがんを攻撃できれば、副作用の面からもこれに勝ることはないと思いますが、いかがでしょうか。

帯津:がんへの攻撃力ということですと、抗がん剤のほうが強いですね。ですから、あまりにもがんの勢いが強い際には、漢方薬ではなく抗がん剤に任せるべきですが、その際の副作用の軽減には効果を発揮します。

しかし、漢方にも抗がん作用のあるものはあります。今から30年くらい前になりますが、天津の薬物研究所の先生が来日され、私の病院にいらした際にお聞きした「天仙丸」です。

私はお話を伺い大変興味を持ち、すぐに「天仙丸」による治療現場をこの目で確かめようと、中国の吉林省西南部に位置する通化という街まで、列車で11時間くらいかけて向かいました。

そこで、天仙丸の開発者である王振国先生とお会いし、5日間の滞在の間に王先生からいろいろと話を聞くことができましたので、私の病院でも取り入れることにしました。

私は、特に消化器系のがんには天仙液を試してみる価値はあると思います。

――漢方によるがん治療の、具体的な症例を1つあげていただけますか。

帯津:ある作家の友人が食道がんになり、食道全摘出の手術を受けましたが、食道がんはリンパ節に転移しやすく、残念ながらその方もすでに転移があり、ステージⅣの状態でした。

抗がん剤治療は苦しかったようで、大学病院のペプチドワクチンを申し込みましたが、順番待ちで治療開始まで3カ月以上かかると言われたそうです。

その間手をこまねいていることもできないので、私のところにいらしたのですが、触診の際にリンパ節に転移したがんは触るとわかるほどでした。

そこで、私なりの弁証で消熱解毒法と判断し、それに対応する漢方薬を処方しました。

それから3カ月が経ち、大学病院でペプチドワクチンの順番が来たので、あらためてCT検査をしたところ、がんが消失していたという症例があります。

この経緯を友人から聞いた作家が驚かれ、週刊誌に書かれたので、その頃は評判になりました。このような症例が毎回あるわけではありませんが、大きな可能性を示してくれた症例だと思います。

――先ほど、4つの弁証につき「攻法と補法」にも分類されていらっしゃいましたが、清熱解毒法という攻法でがんを攻撃できたということですね。

漢方でがんを攻撃できれば、副作用の面からもこれに勝ることはないと思いますが、いかがでしょうか。

帯津:がんへの攻撃力ということですと、抗がん剤のほうが強いですね。ですから、あまりにもがんの勢いが強い際には、漢方薬ではなく抗がん剤に任せるべきですが、その際の副作用の軽減には効果を発揮します。

しかし、漢方にも抗がん作用のあるものはあります。今から30年くらい前になりますが、天津の薬物研究所の先生が来日され、私の病院にいらした際にお聞きした「天仙丸」です。

私はお話を伺い大変興味を持ち、すぐに「天仙丸」による治療現場をこの目で確かめようと、中国の吉林省西南部に位置する通化という街まで、列車で11時間くらいかけて向かいました。

こで、天仙丸の開発者である王振国先生とお会いし、5日間の滞在の間に王先生からいろいろと話を聞くことができましたので、私の病院でも取り入れることにしました。

私は、特に消化器系のがんには天仙液を試してみる価値はあると思います。

   

東洋医学は「場」の医学「氣」によって場の情報を伝達する

――漢方の治療を受けて、注意することはありますか。

帯津:漢方は、「個の医学」ですので、実際に飲んでみないと証が合う・合わないはわかりません。

先述の4つの診断(四診)にはじっくりと時間をかけ、それから生薬を調合したり、エキス剤を処方したりします。

ある程度、漢方の経験を積んだ医師であれば、診察に大きな間違いはないでしょう。また、薬の素材が自然のものなので、がん治療の標準治療で悩まされる副作用はほとんどありません。

さらに、じっくりと時間をかけた四診により、医師との信頼関係などが濃密になればプラシーボ効果(心理効果)も期待できます。ですから、信頼のおける医師に診てもらうことが大前提といえます。

漢方では、最初に患者さんの表情をよく診て、脈にふれ、お腹の状態を触診します。このようにじっくりと時間をかけた診察を受けると、患者さんは「この先生は一生懸命に診てくれているな」という気持ちになるはずです。

その結果、両者の間に信頼関係が生まれますが、そのような状態を私は、「医療の場が高まる」と言っています。

――人間はメンタルな生き物だと、私も常々思っています。外部的要因を加えなくても、強いストレスで胃に穴が開いてしまうこともあるくらいですから。

最後になりますが、先程「場が高まる」というお話がありましたが、それについてもう少し詳しくお話しください。

帯津:私は、ある先生と「東洋医学とはどのようなものか」といったお話をさせていただいてから、「場」という概念で医療を考えるようになりました。薬学を深く学ばれた先生でしたが、生命を「場の問題」として解き明かされていらっしゃいました。

先生が「東洋医学は、場の医学だと考えています」とおっしゃいましたので、私は「では、気についてはどのようにお考えですか?」と尋ねたところ、「気は、場の情報を伝達するものと理解しています」とおっしゃいました。

このときの会話は、これまで.私が漠然と捉えていた東洋医学や、氣のイメージをまさに霧が晴れたごとく明確に表してくれました。

私たちの体の中には、たくさんの場があり、重なり合いながらいくつもの階層を成していて、それぞれの場には自然治癒力というエネルギーが備わっているのです。

エネルギーの高い場は、生命力を高めることができるので、患者さんのために「医療の場」を高めることは医療従事者の務めだと考えています。

もし、「この病院の医師、看護師さんは、なんとなく冷たい感じがするなぁ」「医師は、パソコンの画面ばかりを見ていて、私の顔をほとんど見てくれないなぁ」と思われたら、そこは「医療の場」のエネルギーが低い証拠ですので、病院を変えることをお勧めします。

漢方の特長である、じっくりと時間をかけた診察を受け、「先生の顔を見ると気持ちがホッとするなぁ」と思えることで、「医療の場」が高まり信頼関係を築くことができ、さらにプラシーボ効果も期待できて、治療の効果が高まるのではないでしょうか。