対談
鵜沼宏樹 (統合針灸治療院元気院長)
今中健二 (中医学ラボ同仁広大院長)

鵜沼宏樹(うぬま・ひろき)

統合針灸治療院元気院長。鍼灸師・指圧師・中医師。東京都豊島区西池袋で治療院を開業、帯津三敬塾クリニック気功・太極拳講師

今中健二(いまなか・けんじ)

中国贛南医学院中医科を卒業、中医師となる。神戸市中央区で中国医学Labo同仁広大を開業。医師や、医学生に中国医学の指導教育を行っている。

がんの痛みや副作用を抑えるための漢方の3大療法~漢方薬、鍼灸、指圧~について、統合針灸治療院元気の鵜沼宏樹院長と中医学ラボ同仁広大院長の今中健二中医師に対談をしていただきました。

医療者や家族は伴走者であり、実際に医療と家族の支えが必要

※対談では、がんの痛み、副作用をおさえる3大療法について話し合われました。

鵜沼:
がん患者さんの痛みは多種多様です。その対処法については、一概には言えません。

たとえば激しい痛みを伴う場合、西洋医学では、強い麻薬系の薬を使うことがあります。

でも中医学、いわゆる東洋医学では、強い薬を使って、本人の意識が朦朧となり、家族とのコミュニケーションがとれなくなる以前に、さまざまな方法を取り入れられるというメリットがあります。

鍼灸、ツボ、気功をはじめ、身体を緩め、筋肉のこわばりをとってあげるだけでも、解消できる痛みもあるわけです。

今中:
強い薬を使ってがんの痛みが消えても、意識障害が残ってしまったり、家族とのコミュニケーションがとれなくなってしまったりしたら、患者さんのためにもなりませんからね。

鵜沼:
中医学には「扶正祛邪(ふせいきょじゃ)」という考え方があります。

「扶正」というのは、「正気(せいき)を扶ける(たすける)」いわば生命力や元気を引き上げること。こういう切り口での介入が、病状改善にかなり役立ちます。

私が常々患者さんに言うのは、「しぶとく生きた者勝ち」ということです。今や医療技術の進歩は日進月歩ではなく、秒進分歩(びょうしんふんぼ)の時代といわれ、免疫療法も目覚ましい発達を遂げています。

昨今では、免疫チェックポイント阻害剤や光免疫療法などが注目されていますが、どんどんいい治療方法が出ているわけです。10年前と違って、1年後には、医学の進歩に従い、まったく別の世界が開けているかもしれません。

そこで東洋医学や代替療法を上手に使い、痛みを緩和し、しぶとく生き続ければ、かなり優れた治療法や薬と出会える可能性があるわけです。

今中:
私が中国医学に魅力を感じるのは、虚症を改善できることです。

たとえば胃が虚になったら消化できません。肺が虚なら呼吸ができない。心臓が虚になれば、循環器系に影響が出ます。

でもこれらはツボひとつ、漢方薬ひとつで改善できる可能性があります。肺が強くなり呼吸がしっかりでき、心臓が安定して拍動も安定。血液が流れ、心臓と肺が機能し、自分の力で食べて、胃と膵臓という内蔵が安定するだけで元気を取り戻せます。

それに鍼灸や整体などもそうですが、副作用なく効果があることは素晴らしいと思います。鵜沼先生は、患者さんやそのご家族にツボ療法などを教えたりされるのですか?

鵜沼:
患者さんご自身とご家族に伝えます。

足の三里(さんり)のツボや親指と人差し指の間の合谷(ごうこく)のツボ、眉間にある印堂(いんどう)などはオールマイティで痛みにも免疫力にも筋肉の緊張にも効果があります。

循環器系、消化器系など胸腹部の不快感には、内関(ないかん)という手首にあるツボが効果的です。

このように誰でもわかりやすく、場所が特定できて、わりと広範囲に効果のあるツボをお伝えしています。

またへその周りや足首周りは温めてもらいます。冷えると全身の血流が悪くなるからです。

腹水、胸水なども足裏の刺激を行うことで改善されることも少なくありません。

足裏療法は、伝統的な中国医療の方法ではありませんが、代替療法の中で一般的に使われます。足裏は力加減が難しくないので広くすすめています。

自分でできない位置にあるツボの場合は、愛族の方にお伝えします。家族のサポートが患者さんの心の支えになると思います。

今中:
私も時々、患者さんやご家族の方に中医学で伝えられている脈診を教えます。これは心臓と脈の測定の仕方で、家族の方にも協力してもらいます。

元気を補うのが漢方医学、中医学の考え方であるので、家族のサポートは大きい力になりますね。

まず入院患者さんで抗がん剤などを点滴している場合、身体に浮腫が起き血行不良になることがあります。

むくんでいるところにがんはありませんから、家族の方に、そこの部分をマッサージしてもらったりしています。

鵜沼:
がんの患者さんの治療は、100メートル走の感覚ではだめですね。1万メートル競走やマラソンのように、長丁場で走ることに似ています。

医療者や家族は伴走者ですし、実際に医療と家族の支えが必要です。

治療の選択肢を広げ「大丈夫ですよ」という言葉をかけて患者さんを安心させる

今中:
気功や運動療法もされますか?

鵜沼:
私はホリスティック医学の第一人者である帯津良一先生の帯津参敬病院で治療を行っていました。

先生と漢方を通じて親しい天仙液の開発者である王振国先生も「歩く気功」を取り入れていますね。

中国では昔から歩くことが良いということで、がんの患者さんには、かなり歩かせます。

日本でもがん学会で10数年前に発表されましたが、1日に1時間をコンスタントに歩いて、週1回のまとまった運動をすると、がんによる死亡率が半分以下になるということです。

長時間、長距離を歩くと、酸素が巡り、血流が良くなるから自然治癒力が高まるのでしょう。

今中:
有酸素運動も効果的ですね。

大事なのは呼吸です。呼吸は肺に関係します。肺はすごく面白い臓器で、身体の治療と調整を自ら行ってくれます。

体内に熱がこもると、肺が膨張します。そして咳が出る。これで身体の中の熱を捨てるのです。

あくびも元気が足りないから酸素を吸うために出るのです。

鵜沼:
ご自身のできる範囲でツボ療法や気功などを日々、取り入れていると医療機関に行くまでの間が埋まります。毎日、自分自身で、あるいは家族が愛情をもってタッチすれば効果も高いはずです。

今中:
西洋医学での治療に加え、東洋医学、代替療法、運動療法、栄養療法など、いろいろな方法があって、それを患者さんが選べるのは、理想的なのではないでしょうか。

たとえば今まで西洋医学の医師から「あなたは末期ですよ。もう治療法がありません」と言われて、心が傷つけられた患者さんをたくさん診てきました。

誰だって「大丈夫ですよ」という言葉が欲しいと思います。そこで「これだけいろいろな方法があります。あなたはこの中から選ぶことができますよ」というような選択肢を増やしてあげたいと思います。

がんそのものが消えていなくても、痛みがなく、進行しなければよいわけです。鍼灸も漢方もそのほかの代替療法も取り入れて、疼痛(とうつう)を緩和し、患者さんがその人らしく生活ができればよいのでではないでしょうか。